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【杜子春】
芥川龍之介
1920年(大正9年) 28歳の頃の作品。
【吉田精一氏の解説より抜粋】
『杜子春』は、中国の伝記『杜子春伝』を踏まえて、童話化したものである。
杜子春が仙道を志して、仙室内に試験をうけ、喜、怒、哀、懼(く)、悪、欲の六情には負けなかったが、最後に「愛」の試験に落第するというところまでは、原文と違わない。
それは七情のうち、「愛」の執着がもっとも強いことを語るのでもあるが、師たる仙人はそのために仙薬を作り得ず、杜子春もまた仙人になりそこなって共に失意歎息するというのが、原典の主旨である。
これに対して芥川は、仙人になりたいために、父母の苦しみをだまって見ているような人間ならば、即座に「命を絶ってしまおう」と思ったと、仙人に云わせている。
仙人となって愛苦を超越するより、平凡な人間として愛情の世界に生き、のどかな生活をする方が、はるかに幸福だと、杜子春とともに作者も考えたのである。
平凡な人情、通俗的な道徳を否定しているようだが、そこに原作にない、この作品の倫理的な美しさがある。
芥川の年少文学中、『蜘蛛の糸』に次ぐ名作である。
【本の紹介】