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「トランク-目の前に開かれた透明な器」というタイトルでお届けします。

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トランク。旅行用の大型鞄(カバン)のこと。スーツケースより大型。

このクリアーなメタルブルーとでも言おうか、綺麗な青い色の入れ物には、トランクという言葉がぴったりだ。

そう。車のトランクと同じ響き。

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その日は寝不足もあり、朝から、右後頭部に鈍い頭痛の種があるのは知っていた。

着る物やら、洗面用具やら、本やら、お土産やら。数日前から準備して、ちゃんとトランクに詰めておけば、何の問題も無いのに。どうして私はいつも、当日の朝になってからトランクにあれこれと詰め込むのだろうか。間近にならないと、どうもイメージがわいてこないのだ。沖縄に飛ぶ、というイメージが。

このメタルブルーのトランクは私の物ではない。卒業旅行に海外に行くからと息子が購入したものだ。広げてみると、かなりデカい。今回は10日ほど、滞在の予定だが戻ってくる日は実は決めていない。最近の沖縄行きに関しては、復路の日程を決めないのが当たり前になってきた。現地で何が起こるか自分でも予測がつかないからだ。

1年前は、何十年ぶりかに一番上の兄と会うことができた。私が那覇から羽田へ戻る日に、兄は香港から那覇へ向かう日程だったのを、私が1日ずらすことができたから。

それからは、なんとなく、復路の日程を決めたくない自分がいるので、そのまま放っておくことにした。現地にいて、戻りたくなったら戻る日を決める。そんな感じ。

そうは言っても、大まかな日程は決めておかないと、二人暮らしの息子にも、滞在先の一番上の姉にも申し訳ないので、一応は決めておく。今回は大体10日分。洗濯しなくてもいいように、下着も靴下も肌着も、着る服も、その他もろもろ、詰め込む。

思ったよりも、うまく詰め込むことが出来た。完璧だ。

今回は、仕事も絡んでいるので、ビデオカメラや三脚も詰め込む。重たいけど、このメタルブルーのトランクなら何でも詰め込める。最強だ。

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さぁ、時間だ。調子に乗って詰め込み過ぎたのか。意外に重たい。家の前の坂道は通称「丸坂」と呼ばれる。急な勾配の坂道なので、道路に◎が並んでいるのだ。車には良いだろうが、このメタルブルーのトランクには少々キツイ。いや、トランクというか、私にはしんどい。

なんとか、この大きなメタルブルーのトランクを・・・私の小さな身体にはどう見ても似合っていないトランクを、ガラガラと、押し上げていき、そして転げていかないように下り、駅まで着いた。

京浜急行は便利になったものだ。羽田空港まで一本で行ける。

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ラッシュは過ぎている楽に行ける時間帯にしたので、もちろん座ることもできた。いつもなら、大きな荷物がある時は端っこに座り、ドアの側の空間にトランクを立たせておく。ところが、せっかく端っこの席に座ることができたのに、ドアの近くに立っている人がいたので、私は自分の膝の前にメタルブルーのトランクを置くことになってしまった。

なんてことだ。この子は、ストッパーがついていない。揺れの激しい京浜急行の車内で、発車するたびに右に揺れ、停車するたびに左に揺れる。それを押さえているのは、意外に神経を使うことに気づいた。

右後頭部の頭痛の種が少し大きくなった。電車の揺れが水やりとなって、芽を出してしまった。これから楽しい沖縄行きだと言うのに何てことだ。ちょっぴり憂鬱な芽だ。

人が、「頭痛の種」と表現する時、それは決して嬉しい種ではない。頭痛とは明らかに不快なものだと改めて感じた。当たり前のことなのに。何で「今」なの?と、とても不快だ。

「私とは誰か?」という問いがふと浮かんだ。

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私は身体ではない。この思考でもない。感情でもない。

「目の前に開かれた透明な器」という言葉が私は好きだ。そう。私は透明な器そのもの。まわりの景色がかすんできて、私は電車に溶け込んだ。「在るそのものが私なのだ」と、感じた瞬間、感じた?感じたのだろうか?それも嘘だ。溶け込んだ?そんなはずないじゃん。頭痛の種は言った。「ここに種があるよ。水やりしたでしょ?」

えっ?

頭痛の種?

その時、私の呼吸は荒くなり、ドキドキしてきた。私の膝の前にあるメタルブルーのトランクに私の身体が勝手に押し込まれ、苦しくなってきた。

パニック障害の人って、こうやって想像して苦しくなるのかしら?という思考がわいてきた。

頭痛の種がズキズキし始めた。芽を出して、茎がまっすぐに太陽を目指し上に伸びていこうとしている。

なんで、私がトランクに押し込まれなくちゃいけないの?あり得ない。

あり得ないのに、その妄想は止まらなくなってしまった。トランクに閉じ込められて息が苦しく身動きもとれない。私はジッとしているのが嫌いだ。嫌だ。動いちゃいけないと思うと、動きたくなくなる。(違う!動きたくなる。)身体がイライラしてくる。胸が圧迫され息苦しい。

 

ふと、自分の身体に意識が戻る。落ち着け、落ち着け、深呼吸をしろ。私は全てに遍満している自由な意識体なのだ。と、言い聞かせるが、またトランクに戻ろうとする。

何じゃ?こりゃ?

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そう。意識は自由自在。全てに、正に遍満しているのだ。

「私」という実在はこの「意識」そのもので、この人間の身体と思わしき入れ物に入っていると錯覚しているだけ。

「目の前に開かれた透明な器だ」と、拡散したと思ったら、すぐに「トランクの中へ」閉じ込められることもできる。変幻自在な存在なのだ。

このままトランクの中にいたら、ヤバい。例え、出られたとしても、今度は飛行機の中に閉じ込められてしまう。そう想像するとまた息苦しくなった。

でも、私はわかっていた。

那覇空港に降り立ち、沖縄の生暖かい空気を吸うと、すぐにこの「頭痛の種」は消えると。

私の心配が私に「頭痛の種」を植えたのだとわかったのは、那覇空港に降りた時だった。

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な~~~んだ。心配していたのか、私。と拍子抜けした。

何を心配していたのかは、すぐに忘れてしまった。

後から理由づけはいくらでもできる。辻褄を合わせるのは簡単。でも、やめよう。

わざわざ思い出す必要は無い。

だから、このShortStoryに結論を書くことも、まとめることも、感想を書くことも、やめよう。

読んでくれた方、聴いてくれた方の、何らかの水やりになれば嬉しいです。

 

私が思っていた通り、那覇空港についた時、「頭痛の種」は完全に消えていて、消えたことも忘れていた。

お聴きいただき、ありがとうございます。

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一気に録音しちゃいました。今、この場の空気感を大事にしたいので、そのまんまUPします。

えぃり~でした。

それではまた♪